村上春樹
「女のいない男たち」--- 村上春樹
村上春樹は長編で作品を残す作家さんですので、短編は長編につながるネタだったり、試行錯誤だったりといった位置づけでしょうか。したがって、長編を読み始める時のようなワクワク感は特になく読み始めました。ところが、この短編集「女のいない男たち」はちょっと違います。村上春樹作品全般に密接に関わるテーマで纏まっております。タイトルの意味するところは、何らかの形で妻や彼女を失った男がテーマになっており、6編の短編からなっています。最後の1編がこの短編集の纏めになっている。
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「アフターダーク」--- 村上春樹
これまでブログの中で感想を書てない村上春樹作品を見てみたら「アフターダーク」がありました。実は書き難くてその侭にしておりました。もう一度斜め読みと思いましたが、結局読み直しになってしまいました。う~ん。やはりほかの村上春樹作品と違う。この作品を長編に分類するとすれば、ほかの長編と違う描き方であり、ひたすら客観的描写に徹して淡々と終わってしまう。村上作品は結末を読者に任せることが多いですが、とくにこの作品は都会の一晩の出来事を淡々と描写して終わってしまう。
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「羊男のクリスマス」---- 村上春樹&佐々木マキ
クリスマスシーズンですね。今回は絵本「羊男のクリスマス」の紹介です。村上さんは佐々木マキさんの大ファンで、念願かなって合作の絵本ができたそうです。村上さんのストーリーと佐々木さんの絵が実によくマッチしていて、ほのぼのとした素敵な絵本です。羊男はなんと素直な性格なんでしょう。これを読むと必ずシナモン・ドーナツが食べたくなります(^^)
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「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」---村上春樹
出版時点で直ぐに手に入らないうちに随分時間が経ってしまいました。そうこうする内にいくつか書評を見る機会がありました。・村上春樹にしては読みやすかった・色のないという意味は名前に色を表す漢字が入っていない・ここでいう、色は個性を意味しているなどなど。。。遅ればせながら、思いがけない貴重品を手にした気分で、じっくり読もうとわくわくでした。読み始めると結局ノンストップで一気読み。久々の村上春樹の世界にどっぷり。大満足でした。良くも悪くも村上春樹の世界でした。
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村上春樹とノーベル文学賞
2013年ノーベル文学賞にカナダのアリス・マンロー氏が決まった。素晴らしい作家だし、素晴らしい受賞だと思う。一方で村上春樹氏をノーベル文学賞候補にあげるのはもう止めてほしい。その理由はノーベル賞の目指す素晴らしさと、村上春樹氏の素晴らしさは全く別物だからである。村上春樹氏のファンとしてはノーベル賞受賞よりも、世界中にたくさんの読者を持つことの方が嬉しいのである。(ちょっと負け惜しみが過ぎるかな^^)
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「やがて哀しき外国語」--- 村上春樹
この本は村上春樹さんが独特な文化を持ったプリンストン大学で客員研究員を勤めていた約2年間の体験に基づくエッセイ集です。昔から村上春樹ファンで殆どの小説は読んでいます。村上さんの翻訳本もいろいろ読みました。しかし記憶にある限り、大笑いしてしまった本はこの本だけです。それも「運動靴をはいて床屋に行こう」の話しだけですが。この章を読むだけでも、このエッセイ集を買う価値があると思います。
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「国境の南、太陽の西」 --- 村上春樹
村上春樹さんの小説の中ではあまり評価の高くない作品ですが、村上さんならではの作品ですきですね~。誰もが持っている幻想を描いたおもしろい作品だと思います。見方によってはちょっと怖い話かもしれません。主人公の「僕」が1951年に生まれて、小学校時代から37~38歳になるまでの話。結婚して家族を持ち、事業にも成功している主人公が、小学校の時に唯一の友達だった島本さんという女性に再会し、全てを捨てて一緒になろうとする。
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「カンガルー日和」 --- 村上春樹
10ページ前後の短編を18編収録した短編集。あとがきにあるように1981年から1983年に毎月雑誌に投稿した作品です。村上さんの短編にはよくありますが、いくつかの作品は長編のためのエッセンス部分であったりします。短編の中で「彼女の街と、彼女の緬羊」と「図書館奇譚」は「羊をめぐる冒険」や「ダンス・ダンス・ダンス」の外伝的な話です。そのほか、「スパゲティーの年に」や「5月の海岸線」にもその後の長編につながる断片、村上さんの言うスケッチに相当する話が出てきます。
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「羊をめぐる冒険(上)(下)」 --- 村上春樹
「君はもう死んでるんだろう?」鼠が答えるまでにおそろしいほど長い時間がかかった。ほんの何秒であったかもしれないが、、、(中略)「そうだよ」と鼠は静かに言った。「俺は死んだよ」---下巻より抜粋主人公の「僕」は唯一の親友といえる鼠を失った。村上さんの長編は常に死が介在する。この小説で「僕」は多くを失う。「羊をめぐる冒険」は「風の歌を聴け」「1973年のピンボール」に続く鼠三部作といわれてるが、最終章で親友を失い、そのほか多くのものを失い閉塞感の強い終わり方である。
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「めくらやなぎと、眠る女」 --- 村上春樹
村上春樹短編集の「レキシントンの幽霊」をパラパラめくっていると、その中の一編である「めくらやなぎと、眠る女」に再び引き込まれてしまいました。他の短編集「蛍・納屋を焼く・その他の短編」にもこの話は載っていますが、「レキシントン・・・」のものはイントロで説明があるように、朗読会のためにオリジナルを4割も短くした大改訂版です。確かに、文章も所々変わっておりますが、私はこのリメイク版の方がスッキリしていて好きです。
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「ダンス・ダンス・ダンス」(上、下)--- 村上春樹
「風の歌を聴け」「1973年のピンボール」「羊をめぐる冒険」の鼠三部作に続くプラス1の位置づけの長編小説です。主人公の「僕」と「羊男」。そして直接登場しないものの「鼠」の話題が出てくることからも三部作の続編です。ものに実態と影があるように、人間にも顕在的な面と潜在的な面、光と影がある。光と影のバランスが大きく崩れると最後に自己崩壊にいたるのだ。これに関しては「僕」の友人で誰もが羨む俳優の五反田君が典型的な例として登場する。そして・・・。
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「回転木馬のデッド・ヒート」 --- 村上春樹
この本は冒頭で村上さんが書いているように、小説ではありません。エッセイでもなく、実話に基づくある種のインタビュー記事のようなものです。9編の話が入っておりますが、不思議な話が幾つも出てきます。でも村上さん曰く、事実をできるだけ忠実に表現したスケッチのようなものだそうです。
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「スプートニクの恋人」 --- 村上春樹
今回は村上春樹さんの「スプートニクの恋人」です。毎度のネタバレというか、あらすじを書いてしまいました。22歳の春にすみれは生まれて初めて恋に落ちた。それは激しく、みごとに記念碑的な恋だった。恋に落ちた相手はすみれより17歳年上で、結婚していた。さらにつけ加えるなら、女性だった。すみれは大学の3年生になる前に退屈な学校を退学し、小説家になる以外自分には進むべき道は無いと考えていた。主人公の「ぼく」は・・・。
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「1Q84 Book3」(前編、後編) --- 村上春樹
BOOK3まで読み終えて、久々の村上春樹長編に大満足!BOOK2に続きスリリングな青豆の逃亡生活と、天吾との再開に焦点が集まります。すみません。毎度のネタバレです。青豆は「さきがけ」のリーダーを殺害した後、身を隠しているマンションのベランダから天吾を見掛ける。天吾のところには失踪した ふかえり が転がり込む。そして、ふかえりは青豆が天吾のアパートから歩いて行ける処に身を隠していると告げる。
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「1Q84 Book2」(前編、後編) --- 村上春樹
BOOK2になって物語のテンポが良くなり、がぜん面白くなりました。BOOK1はBOOK2以降の伏線として重要ですが単調で長く感じたので、なおさらBOOK2の目まぐるしい展開に引き込まれてしまいます。 毎度のネタバレです。青豆はいよいよ強大な宗教カルト集団となった「さきがけ」のリーダーを暗殺することになる。天気予報に反して交通が混乱するほどの激しい雷雨の夕刻のことである。意外なことにリーダーは死を望んでおり、青豆が暗殺に来たことを予知している。
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「1Q84 Book1」(前編、後編) --- 村上春樹
4月に村上春樹さんの1Q84が文庫本になりました。予約をしていたBook1(前編、後編)セットがメール便で届きました。ストーリーの展開はいつも通り。村上流の2話同時進行、実は1つの話構成です。いつも通りにネタバレですのでご注意ください。1つは「青豆」というスポーツインストラクターをする女性暗殺者が主人公の話。もう1つは「天吾」という直木賞受賞小説のゴーストライターをする小説家志望の数学教師の話。
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「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」 --- 村上春樹【ネタバレ】
ネタがバレバレですからご注意を!街の地図(世界の終わり)内容は「世界の終り」と「ハードボイルド・ワンダーランド」に分かれており、この2つの物語が章ごとに交互に進行する、いつもながらの村上流の構成。「世界の終り」の物語は世界の終わりであるワンダーランドに入る主人公の話。ここは一角獣の住む越えることの出来ない壁で囲まれた街。ここの住人は影を切り落として心をなくした人々。
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「海辺のカフカ」(上)(下) 村上春樹
15歳の田村カフカ少年の話とナカタさんと言う数奇な運命をたどる老人の話が平行して進みます。カフカ少年は父親の「父を殺し、母と姉と交わる」との予言から逃れるため家を出て自立することを決意します。もう1人の主人公ナカタさんは幼少時の疎開先で奇妙な事件に遭い、それが原因で全ての記憶と読み書きの能力を失いました。それと引換に猫や石と話ができる能力が備わり、年金と猫探しをアルバイトとして生活しています。
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「神の子どもたちはみな踊る」 村上春樹
村上春樹の連作短編小説集で1995年の阪神・淡路大震災に何らかの関係を持つ6つの短編からなっております。その内の一つの題名が「神の子どもたちはみな踊る」で、どの話も何か重苦しい余韻の残る作品です。私は村上春樹の作品としては、どちらかと言えば長編が好きですが、短編集やエッセイ集も殆ど読みました。「神の子どもたちはみな踊る」は今回の3.11東北地方太平洋沖地震後に再読したくなり読んだものです。
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「ねじまき鳥クロニクル」 村上春樹
第1部 泥棒かささぎ編第2部 予言する鳥編第3部 鳥刺し男編第1部、第2部は再読。第3部は今回読みました。第2部を読み終えた後、クミコとの再会の結末を知りたいと思ったことを覚えていますが、村上作品の終わり方としては有りかなと思い、第3部を読まない儘になっておりました。村上春樹長編の中ではとても気に入っている作品であり、是非第1部から第3部まで通して読まれることをお勧めします。
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「ノルウェイの森」 村上春樹
これは恋愛小説ではなく、主人公を通していろいろな人々の生き様を描いた小説であり、村上春樹独特の人生の受入れ方をテーマにした物だと思います。登場人物は皆個性的で各人各様に壁に突き当たりますが、その処し方がそれぞれです。とても面白い小説です。いつもの様に主人公は何故かもて過ぎですが、結局は直子の心を捉えることが出来ず、直子の自殺で離別することになります。
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「風の歌を聴け」 村上春樹
村上春樹のデビュー作です。当時、私はまだ学生気分の抜けきらない社会人で「群像」新人賞を受賞し、芥川賞候補になった「風の歌を聴け」で村上春樹を初めて知ったわけです。自分の学生時代と小説の時代背景があまり違わなかったこともあり、親近感とともに都会的な流れるような文章に新鮮さを感じたのを覚えています。特に、気の利いた会話が楽しめ、BGMの様な感覚で読みました。私たちの世代は何となく米国風の雰囲気にまだ憧れを持っていた時代であり、そんな感覚も村上さんの文章を受入れる後押しをしたかもしれません。
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「東京奇譚集」 村上春樹---ネタばれ注意
数話の短編で構成されたお気に入りの一冊です。題名からも分かりますがちょっと変わった話と大いに変わった話が収められてます。ちょっと変わった話の方は、あるかも知れない、いやあるに違いないと思います。私自身も似たような話を聞いたことがあるし、話してくれた人の目に嘘は無かったのを思い出します。ちょっと変わった方で私が好きなのは「偶然の旅人」と「ハナレイ・ベイ」です。
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